KDDIと沖縄セルラーらは2020年2月4日に、沖縄県で観光型MaaSの実証実験などを実施。沖縄の観光産業が抱える課題解決に向けた取り組みになる。
撮影:佐野正弘
KDDIと沖縄セルラー電話、沖縄セルラーアグリ&マルシェなど9つの企業・団体は共同で、2月4日より沖縄県那覇市で、観光型MaaS※の実証実験を実施することを発表。報道陣にその内容を披露した。
※MaaSとは:
Mobility as a Serviceの略。自動車や電動モビリティーなどを中心に、「所有」するのとは違う形でサービス化して利便性を提供するビジネス形態のこと。
レンタカー急増するも公共交通は伸び悩み
沖縄では観光客の増加でレンタカーの利用が急増。それによって交通渋滞や事故なども大幅に増えている。
沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎氏によると、沖縄県では年間の観光客が1000万人を超えるなど好調に伸びている。その一方で、観光客の増加が交通に与える影響が課題となっている。
沖縄県は自動車の利用がもともと多く、2018年度の県内の保有台数は約114万台。年々増え続けている一因が、観光客の増加によるレンタカーの急増だ。2018年度の実績では約4万台が利用されている。
レンタカー事業者も11年間で2.8倍に急増しており、価格競争が激化しているほか、引き渡しのために空港付近で混雑も発生している。
さらに、レンタカーの増加によって、「沖縄県の交通渋滞は大都市部と変わらない水準に達しており、交通事故も増えている」と下地氏は話す。
那覇空港からてだこ浦西まで全19駅を結ぶ沖縄の「ゆいレール」。
一方、なかなか利用が進まないのが、公共交通機関だ。
那覇空港と市街地を結ぶモノレール「ゆいレール」こそ利用が伸びているというが、路線バスは観光客の利用率が1~2%と非常に低い。行政でも路線バスの利用呼びかけを進めているが道半ばの状況だという。
タクシーの利用客は多いものの、運転手不足で4分の1のタクシーが稼働していないなどの課題を抱えている。
世界水準の観光リゾート地を目指す沖縄県としては、「公共交通同士の連携を図り、利用拡大することで、観光客の極端な移動手段の偏りを解消したい」(下地氏)という。
観光情報からタクシー配車まで一気通貫
沖縄観光のスマート化を実現する上では、「旅前」「旅中」「旅後」の3段階でデジタル化の取り組みが求められる。
沖縄セルラーアグリ&マルシェ社長の國吉博樹氏の説明によると、今回の実証実験の概要はこうだ。
同社は沖縄セルラー傘下で野菜工場や沖縄の観光情報提供、沖縄県産品のEコマースサイト運営などを手掛けている。同社が提供している観光情報アプリ「沖縄CLIPアプリ」は、月間ページビューが100万を超える。
國吉氏は、沖縄の観光をよりスマートにして体験価値を向上させるために、SNSやアプリなどによる情報収集をする“旅前”、移動や観光、宿泊をする“旅中”、そしてSNSで体験をシェアしてもらう“旅後”といった導線が重要になると説明。
今回の実証実験はそのうち旅中の移動に関する取り組みで、MaaSによる公共交通の有効活用で交通渋滞の緩和を目指すとしている。
実証実験の全体を統括するのは沖縄セルラーアグリ&マルシェとKDDI、沖縄セルラー。そこに日本トランスオーシャン交通や沖縄都市モノレールといった沖縄の交通事業者、ナビタイムジャパンやJapanTaxiなど、MaaSに関連するサービス事業者が参加し、共同でMaaSプラットフォームを開発・提供する。
KDDIの次世代基盤整備室長である前田大輔氏によると、今回の取り組みは同社にとって、「2020年3月に商用サービスを開始する5Gの時代を見据えたものになる」という。
複数の交通機関を連携させる“マルチモーダル”の推進によって、「将来的にはビッグデータの活用で交通網の設計などにも役立てられるのではないか」と前田氏は話す。
アプリでゆいレール対応もやや課題は残る
実証実験に用いられる「沖縄CLIPトリップアプリ」。沖縄の観光・グルメ情報を見るだけでなく、目的地までのルート検索やアクティビティの予約、そして交通手段の確保までがシームレスにできる。
実証実験にあたって提供されたのが、「沖縄CLIPトリップ」というスマホアプリだ。
このアプリでは沖縄の観光スポットやグルメ情報をチェックできるだけでなく、情報を見た後にお店やアクティビティの予約が可能。現在地からその場所までのルートを検索し、タクシーの配車・決済のできる「配車アプリ」としての機能も有する。
さらに、登録したクレジットカードでゆいレールの1日乗車券も購入できる。ただし、購入した乗車券は有人の改札に画面を見せて改札を通るという、アナログな仕組みだ。
ゆいレールは自動改札機にQRコードを採用しているだけに、スマートフォンにQRコードを表示して改札を通過する仕組みを実現して欲しかった。
アプリからゆいレールの1日乗車券を購入したところ。スマートフォンにQRコードのチケットを発行するのではなく、有人改札にこの画面を見せて利用する形となる。1日乗車券は24時間制なので、時間内であれば何度でも乗ることができる。
他にも課題がある。伸び悩みが目下問題となっている公共交通機関のバスは、このアプリ上では経路検索しかできず、乗車券をアプリ上で購入もできない。
すべての仕組みをデジタル化するには交通機関側のシステム対応も必要になることから、今回は現在できる範囲内でサービスを提供するに至ったようだ。
ルート検索画面にバス停のルートは表示されるが、タクシーやモノレールと異なりバスのチケットをアプリ上で買うなどの仕組みは用意されていない。
実証実験の期間は、2020年2月4日から3月31日までとあまり長くはない。この点について前田氏は、
「3月末でトライアルは終了するが、そこでもう1度データをフィードバックして改良し、可能であれば参画いただく事業者を増やすなどの取り組みを進めて次のステップに進んでいきたい」
と話す。実証実験後も沖縄でのMaaSに関する取り組みを推し進めたいとの考えを示している。
焼失した首里城をVR映像で視聴できる取り組みも
2月4日時点の首里城の様子。中に入ることはできないが、焼け跡が目立つ。
ちなみに、KDDIと沖縄セルラーアグリ&マルシェらは今回の実証実験に合わせて、沖縄観光支援策の1つとして、8Kの360度映像で撮影した首里城のVR映像を沖縄県内の各所で視聴できる場を提供する取り組みも発表した。
首里城は2019年10月31日の火災で大部分を焼失。だが火災以前に、JTB沖縄が「令和元年度世界文化遺産プロモーション事業」で、首里城をはじめとした沖縄県の、9つの世界遺産のVR映像を撮影していたという。
首里城の焼失前の映像を、8KのVR映像で視聴できる取り組みも実施。首里城公園や那覇空港など沖縄県内の主要な場所で展開される。
今回の取り組みでは、首里城復興支援のためJTB沖縄がVR映像を、日本トランスオーシャン航空がVRゴーグルを提供し、首里城公園や那覇空港などにこのVR映像を無料で視聴できる場を用意。VR空間で首里城の観光体験を実現した。
同時にKDDIと沖縄セルラーアグリ&マルシェでは、「首里城復興応援プロジェクト」の特設ページを開設し、復興支援を支援するコンテンツを提供していくという。
「IT×観光」の可能性
首里城のVR映像をタブレットで表示しているところ。「首里城復興応援プロジェクト」の特設ページでも動画の視聴は可能だ。
一連の取り組みからは、いま話題となっているIT技術が観光産業に貢献できる要素が少なからずあることがわかった。
一方で公共交通など、既存の産業と新しいIT技術をシームレスに結びつけるにはまだ課題があり、最先端の取り組みを実現するまでのハードルも垣間見えた。
ITと既存の環境産業がいかに連携し、新たな観光の形を生み出し、課題解決を実現できるか、今後期待されるところだ。
(文、撮影・佐野正弘)
佐野正弘:携帯電話ライター。デジタルコンテンツ・エンジニアを経て、現在では携帯電話・モバイルに関する執筆を中心に活動中。
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February 06, 2020 at 03:15AM
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