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再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5 - 朝日新聞社

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

カナダの北極海を目指す、再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編の5回目。前回は、北極圏の街、イヌビクまで来ました。今回は、旅の目的地である北極海へ。そこから折り返し、帰路にある街、フォート・マクファーソンまで向かいます。

前回、再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4はこちら

(文:下川裕治、写真:阿部稔哉)

イヌビクから北極海、フォート・マクファーソンへ

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5

北極海をめざす旅も終盤。前回は北極圏に突入し、マッケンジー川のデルタ(三角州)エリアの中心都市、イヌビクまでを紹介した。今回はこのルートの最終区間、イヌビクから北極海に到達する道を進む。そして帰路につき、ピール川に沿った街、フォート・マクファーソンまでを紹介する。

1990年に刊行された『12万円で世界を歩く』。そのコースのひとつ、北極海への道、を辿(たど)る旅だ。約30年前は、イヌビク以北に道はなかった。小型飛行機で、北極海に面したトゥクトヤクトゥクに向かった。道ができたのは約2年前。デンプスターハイウェーは、北極海へ到達する道になった。

今回の旅のデータ

イヌビクからトゥクトヤクトゥクまでは約144キロ。この区間の工事は2014年にはじまった。永久凍土のツンドラの植生を守るために、工事は冬の時期に集中して行われたという。冬季はマイナス30度にもなるこの一帯。緯度が高いため、太陽が出ない日も1カ月以上続く。大変な工事だった。開通は2017年11月。イヌビクとトゥクトヤクトゥクの間に、店はもちろん、家はまったくない。イヌビクから日帰りで向かう人が多い。トゥクトヤクトゥクにはホテルが1軒ある。

長編動画

波が打ち寄せる北極海の海岸にカメラを固定。寒々しい北極海の眺めを1時間。この記事が配信される時期は、この一帯も完全に凍りつく世界に変わっているはずだ。

短編動画

海に面したイヌイットの家。そしてサケのスモークをつくる小屋の外観から内部を。トゥクトヤクトゥクの静かな生活のワンシーン。

イヌビクから北極海、フォート・マクファーソンへ「旅のフォト物語」

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
北極海に向かう前に腹ごしらえ。イヌビクのレストランは、ホテル併設店しかなかった。安くすませるために、街に2軒ある雑貨屋風スーパーで、パンとコーヒー。3カナダドル、約291円。パンはのけぞるほどに甘かった。店員や客の大半は先住民。カナダにいることをちょっと忘れそうになる。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
イヌビクには2日間滞在。僕らの朝食はいつも、雑貨屋風スーパーの前のテラスでした。街のメイン通りを眺めながら。朝の時間帯は、コーヒーを買いに次々と客が現れる。あいさつを交わしながら、不思議な東洋人?という視線にさらされる。先住民はシャイなのか、「日本人?」と聞いてくる人はひとりもいなかった。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
北極海に向かう道を走りはじめる。開通してから約2年。植物を守るため、地面を掘るのではなく、土を盛っていく工法がとられている。しかし路面は柔らかで、スピードは出ない。のんびり旅を道が強要しているかのようだった。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
沿道に店はもちろん、家は一軒もない。湖と丘が広がるのびやかな風景のなかを進んでいく。ときおり、壊れ、放置されたスノーモービルを目にした。北極圏の足は、かつての犬ぞりからスノーモービルやバギーに変わった。暮らしは便利になったが、その残骸に、なんだか殺伐とした気分になる道でもある。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
この一帯はヘラジカの生息地。大型のシカで体重は800キロを超えることもあるという。ときおり、車との衝突もあるというが、そこで「NEXT 20 km」の表示に悩むことになる。20キロ先付近でヘラジカが横切ることがある? ちょっと遠い。すると編集部から、「ここから20キロ先まで、ヘラジカに注意」の意味では?という指摘。そうなんだろうか。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
北上するにつれ、湖が増えてきた。そのうちに湖だらけになってしまった。永久凍土の表面が解けて、その水が湖をつくっているのだ。道はその間の土手のようなところにつくられているから、延々とくねくね道。いったいどの方向に向かっているのかわからなくなる。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
ピンゴが見えてきた。ピンゴというのは、いったん解けた水が、地中でレンズ状に凍り、地表を押しあげたもの。高さは50メートル前後のものが多い。つまりこの小山のなかは氷。そんなことが起こるのか……としばし眺める。トゥクトヤクトゥクは別名、ピンゴタウン。すごく寒いってことです。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
いました。自転車で北極海をめざす強者が。先住民ではなく、白人系の人。彼らのメンタリティーがそうさせる? しかし路面が柔らかく、北極海から吹く風も強いので、スピードが出ない苦行。僕らは車なので、その横をさっと追い抜きましたが。見ると、僕と同年代に見えるおじいさん。僕の内心は、忸怩(じくじ)たる思いってやつですなぁ。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
トゥクトヤクトゥクの住宅街を抜けると、出ました、北極海。ついに到達です。約30年前はイヌビクからの道がなく、小型飛行機で辿り着いた。今回は延々、車。達成感が違います。海岸は広場のようになっていて、記念撮影用の看板も。道が開通し、多くの観光客が……と期待してか、バーベキュー施設もつくってあったが、誰もいない寂しい海岸広場でした。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
トゥクトヤクトゥク。約30年前、ここにイヌイットが暮らすテントが並んでいた。氷が解ける夏は猟ができず、彼らは、陸(オカ)に上がった河童(かっぱ)状態。テント脇にいたおばあさんは日本人そっくりだった。北極海をめざす旅路は、日本を含めたモンゴロイドエリアの入り口に至る道だと知らされた一瞬だった。いま、テントはこんなに立派な家になった。カナダ政府の定住政策の家々です。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
約30年前、イヌイットの定住政策が進んでいた。政府から支給金があれば、猟に出なくていい。そこでアルコール依存に陥っていく人たちもいた。アイデンティティーの喪失だった。泥酔したイヌイットを何人も見た。しかし最近、アルコール問題はだいぶ改善されてきた。仕事につくイヌイットも増えた。教会もひと役買ったといわれている。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
北極海の海岸には、サケの燻製(くんせい)小屋があった。先住民の小屋だが、実は観光客向け。ここで食べることもできる。10月になると、サケの遡上(そじょう)がはじまる。しかしいまは環境保全のために、漁獲量が厳しく管理されている。昔を再現しているということだろうか。小屋の内部は次の写真で。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
小屋には誰もいなかった。つるされたサケの下には、木材が燃える小さな火。食べてみたい。マッケンジー川のデルタ地帯にきたが、1回もサケを見ることはなかった。スーパーにもなかった。2時間近く待っていたが、小屋の主人は現れなかった。もう少し、商売に熱心になってくれてもいいと思う。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
帰路に着いた。イヌビクで1泊し、同じデンプスターハイウェーを戻ることになる。往路で寄ることができなかったフォート・マクファーソンへ。ピール川に沿った街だ。かつてドーソン・シティーまでの、犬ぞりの基地でもあった。街なかのビニールハウスをのぞくと花が見えた。これからはじまる長く厳しい冬。この花が家に飾られる?

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5
フォート・マクファーソンは先住民の街だ。ちょうど昼どき。おばあさんがスーパーに買い物に。街には老人が多い。先住民の街も高齢化の波だろうか。ここのガソリンスタンドは安いと聞いていた。もちろんたっぷりと給油。ホワイトホースまでは、1000キロを超える道のりが待っている。

【次号予告】次回は最終回。フォート・マクファーソンからバンクーバーへ。
※取材期間:2019年9月14日~15日
※価格等はすべて取材時のものです。

BOOK

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 阿部稔哉

    1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

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December 18, 2019 at 09:07AM
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