赤いピン、グレーのピン
テスラウェブサイトのスーパーチャージャーのページを見ると、現在稼働中の充電器(赤いピン)と、近日オープン予定の充電器(グレーのピン)が表示されています。この「近日オープン」というのが曲者で、場所によっては数年間グレーのまま一向に建設が進まないものもあります。
上図は先日までの北米のスーパーチャージャー網ですが、カナダは五大湖からカルガリーあたりまでグレーのピンがズラッと並んだまま、これまで長いこと進展がありませんでした。それが23箇所も一気に、しかも主に米国内にしかなかったV3と名付けられたパワフルな250kWの高出力チャージャーばかりでオープンし、カナダのオーナーにとって最高のクリスマスプレゼントになりました。
先日、サンクスギビング休暇の際に巨大バッテリーを積んだトラックが出動したエピソードがありましたが、クリスマス休暇もアメリカ人が親族の家に向けて大移動をする時期で、あのような渋滞が毎年いくつかの決まったスーパーチャージャーで起きていました。その原因が現在最も普及しているV2スーパーチャージャーです。
V2は120~150kWもの出力を誇る高速充電器ですが、2台1組で元電源を共有する仕組みになっていて、充電中に隣に誰かがやってくると、150kWの出力を互いに分け合う必要があります。先に来た人が優先で、後から来た人は下手をすると30kWももらえないなんてこともあり、近くのCHAdeMOに行ったほうが速い場合さえあります。しかしV3では充電器が独立してそれぞれ250kW出るため、スループット(利用台数)が大幅に向上します。
こちらの動画は先日ラスベガスにオープンしたV3チャージャーです。これまでラスベガスは3箇所、計18基のV2スーパーチャージャーで月間6500回の利用があったのですが、新たにオープンした24基のV3スーパーチャージャー1箇所だけで1日最大1500回もの充電セッションが可能になりました。
それほどの高性能な充電器をなぜ、まばらにしか利用されないカナダの僻地に採用したのか。それはEVのネックとされていた長距離旅行もガソリン車と同等に行えることを証明するためだと思います。
長距離旅行でもガソリン車と同等
トランスカナダスーパーチャージャー網では平均して200kmごとにスーパーチャージャーが設置されています。最も航続距離の短いモデル3でも400km走行できるのに何故こんな高密度にスーパーチャージャーがあるのか。それはEVの充電特性に関係しています。
下記のグラフは横軸がバッテリーの充電量(SoC)、縦軸がスーパーチャージャーの出力です。バッテリーが空に近いほど出力が高いことがわかります。つまり空に近い状態でスーパーチャージャーに到着し、次のスーパーチャージャーにたどり着けるだけの充電量に達したらさっさと出発してしまうのが最も効率がいいのです。
テスラによるとV3なら7分で160km、15分で290km(※)も航続距離が回復するので200km(約2時間)走って10分充電+休憩というサイクルでどんどん進んでいくことができます。この2時間ごとに10分休憩のサイクルは、厚生労働省の「連続運転時間・休憩の考え方」(PDFファイルにリンク)でも推奨されており、ガソリン車の方もよほどお急ぎでない限りこのようなペースになるのではないかと思います。
(※)車種は不明ですが恐らくモデル3ロングレンジRWDと思われます。
Drive-to-charge-ratio(走行充電比)という概念
また、走行と休憩のペースに関連して、「Drive-to-charge-ratio(走行充電比)」という考え方が去年あたりからアメリカで取り上げられているのですが、上記の例では120分走行して10分充電するため12:1になります。私のモデルS 90Dだと2時間走行して20分充電するため6:1となり、初代テスラ・ロードスターでは2時間走行して2時間チャージする1:1になります。左側の数字が小さいほど、充電での待ち時間が多いと覚えておいてください。2020年から各メーカーのEVが続々と登場しますが、長距離ドライブをする方はこのDrive-to-charge-ratioに注目して車種選びをするのも良いかと思います。
ここまでは「ガソリン車にやっと追いついた」という話ですが、コストの話になると圧倒的にEVが有利になります。カナダのGlobal Newsの関連記事によると、カナダのちょうど真ん中に位置するレッジーナという街からバンクーバーまで1767kmを走行するのに、わずか26加ドル(2,177円)しかかからないそうです。これがガソリン車だとしたら、カナダのガソリン価格が2019年12月23日現在で1リットル110.5円なので、燃費の良いトヨタ新型クラウン2.5ハイブリッド(高速道路燃費22.3km/L)で計算しても8,755円かかることになります。
大阪では一家に一台たこ焼き器があるように…
カナダの人たちは一生に一度はクルマで大陸横断旅行をすると言われています。夏休み期間などは特に人気が高く、広い国土をのんびりと旅しながら各地を巡ります。前述のチャットのオーナーの中にも既に2020年夏の計画を立てている方がいました。
トランスカナダスーパーチャージャー網は、その名前の元になったTrans-Canada Highwayに沿っています。Highway 1やHighway 17など複数の国道が連なった複数のルートの総称で、着工は1950年。1962年に一部開通し、最終的に1971年に全線開通しました。
今回、このスーパーチャージャー網が完成したことで、EVによる大陸横断が可能になっただけでなく、日常的な移動も含めて利便性が格段に向上し、環境への負荷が格段に下がります。先日、小泉進次郎環境相がCOP25で「化石賞」を受賞していましたが、カナダは逆に世界有数の再エネ発電国(発電割合ベース)で、67%のエネルギーを水力を始めとする自然エネルギーで賄っています(上)。さらにソーラーパネルの設置も近年急速に進んでおり、テスラソーラーなどの供給量の増加に伴い、今後も増えることが見込まれています(下)。
今後数年でアメリカとの国境をまたぐルートが完成し、北米ではいよいよガソリン車と同じ感覚でどこへでも旅行に行けるようになるでしょう。さらに環境にも優しくて、お金も節約できることがこれから実証されていくため、EVは不便ではないというイメージが一般に浸透していく、そんな意味合いがこのトランスカナダスーパーチャージャー網にあるのだと思います。
(取材・文/池田 篤史)
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December 29, 2019 at 11:42AM
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